古き良き仕事を残す

By in Faux Paint, Repair on 2008/10/16

古き良き仕事を残すRepair of Old good work

ここは東京都心にある、高級装飾品を扱うことから著名人が多く訪れる老舗の専門店として知られている建物です。ゴジラに破壊された過去があるというのは豆知識。研ぎ出しでつくられた階段の笠木と幅木、通路のボーダー補修です。

研ぎ出しとは大理石や花崗岩を粉砕した種石を白色セメントや色粉(顔料)を練り混ぜたモルタルと練り混ぜて塗り付け、硬化したあとに表面をなめらかに磨いて美しい模様に仕上げた人造石(擬石)のことです。人研ぎやテラゾーなどとも呼ばれます。耐摩耗性・防水性に優れているので公共施設の床や手洗い場などで多く用いられましたが、現代では作業に手間が掛かるのと研ぎ出す際に大量の粉塵が舞い上がることから敬遠されて、一気に衰退していきました。また二次製品の台頭も理由のひとつです。

改修工事のために解体で破損した箇所をモルタル補修した後、まずはひたすら石目を描きます。次にその上から、周囲の色調と合わせるために複数の色を重ねて塗って馴染ませます。材料の練りムラによるモルタルの濃淡も表現します。仕上げは刷毛目と不自然な光沢を出さないように、通常よりも希釈したクリアコートをスポンジで拭き取りながら幾度か塗り重ねます。
このような補修作業は一日に一平米も進まないのが通常ですが、地上7階から地下2階まで延々と続く階段作業は時間との戦いです。要求されるレベルを落とさずに限られた時間で収めるには全体をまとめることが重要なミッションです。補修箇所に優先順位をつけて、違和感を感じないようにバランスよく進めていきます。何も考えずに100%の補修をこなす事の方がむしろ簡単なのですが、それでは一年以上も掛かってしまい現実的ではありません。このタイプの補修は作業のペース配分と全体バランスを見渡すセンスが要求されます。

無事にチェックも終えてよみがえった研ぎ出しですが、現在のこの場所はバックヤードとして存在するために一般の来訪者の目に触れることは決してありません。贅沢な話ですね。正確な資料が見つからないためわかりませんが、おそらく戦前のものではないかと思います。この人研ぎの価値が理解されているからこそ、撤去されずに貴重な昭和の左官仕事として残されたのでしょう。これだけの規模がある人研ぎを見られたことに心から感謝しています。文化財の修復方法とは思想が違いますが、対象への敬意という点ではこれもひとつの修復といっても良い気がします。

解体による破損箇所を左官補修した後に石目を描画
店舗 / 東京都 / 2008年

 

古き良き仕事を残す

右側が既存の石目

古き良き仕事を残す

左側に描いた石目にこれから複数の色を塗り重ねます

古き良き仕事を残す

見分けがつかなくなってきたら完成間近

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